仕事のやりとりの中で、「この人とは話しやすいな」と感じたことはありませんか?あるいは、なぜかすれ違いが多く、思ったように信頼関係が築けないと感じた経験があるかもしれません。実は、こうした違いの背景には、相手に伝える「言葉づかい」のちょっとした工夫が大きく関わっています。
言葉は単なる情報伝達の手段ではなく、相手の気持ちを理解し、信頼を育てていく大切な道具です。特にビジネスの場では、丁寧で思いやりのある言葉づかいが、誤解を防ぎ、安心感を生み出し、周囲との関係をより良いものへと変えてくれます。
本記事では、「仕事で信頼される人」が実践している、相手の気持ちにそった言葉づかいの7つの工夫をご紹介します。どれも難しいテクニックではなく、今日から少し意識を変えるだけで誰でも実践できる内容です。
あなたの言葉が、職場での信頼や人間関係をより深めるものになるように。そんな願いを込めて、一つひとつ丁寧にお伝えしていきます。
この記事の目次(タップでジャンプ)
工夫1 相手の立場を想像したうえで話す

仕事の場面では、相手に伝える言葉がただの情報のやり取りにとどまらず、人間関係の土台となる大切な要素になります。とくに信頼される人ほど、言葉を選ぶときに「どう受け取られるか」を無意識のうちに意識しています。これは、単にマナーや形式に則った敬語を使うというだけではなく、その場その場で相手が置かれている状況や感情を感じ取り、それに応じた言葉を使うという配慮の積み重ねにほかなりません。
言葉は目に見えませんが、受け取る側にとっては時に心を温め、時に傷つける力を持ちます。だからこそ、相手の立場を想像しながら話すということは、信頼される仕事人として欠かせない大切な姿勢です。ここでは、そのための視点を3つに分けてご紹介します。
なぜ「想像力」が言葉づかいに必要なのか
仕事において、想像力というとクリエイティブな職種の人が使うもの、と思われるかもしれません。しかし、実際にはどの職種であっても、人と関わる仕事において想像力は必須です。特に「この言葉を使ったとき、相手はどう感じるだろうか」「自分の発言が、相手のその日の仕事や気分にどんな影響を与えるか」など、相手の受け止め方を想像する力があれば、言葉選びに自然と丁寧さがにじみます。
たとえば、同じ「よろしくお願いします」という言葉でも、軽く言えばそっけなく聞こえますし、丁寧に心を込めて伝えれば信頼を感じさせます。これは、相手がどんな立場か、今どんな状況にあるかを思い描いて言葉を発するかどうかで、印象が大きく変わるからです。
「今この人はどんな気持ちか?」を意識する方法
相手の気持ちを完全に知ることはできませんが、「想像する」ことなら誰でも今この瞬間からできます。朝から何か忙しそうにしている、会話がそっけない、表情が少し曇っている。そういった些細な変化に気づいたとき、「今、この人は何を考えているんだろう」「少し疲れているのかな」などと想像することが大切です。
たとえば、いつもは冗談を言い合える同僚でも、忙しさに追われている時に同じテンションで接すると、負担に感じさせてしまうこともあります。そんなときには、少しだけトーンを落とし、用件を簡潔に、そして穏やかに伝えるだけで、相手の負担を軽減できます。つまり、「言葉そのもの」よりも「その前に相手の気持ちを想像すること」が、より適切な言葉づかいにつながっていくのです。
立場に応じた言い回しの工夫とは
また、相手の立場によって受け取り方が変わることを忘れてはいけません。例えば、上司に対する言い回しと、同僚、あるいは後輩に対する表現は、少しずつトーンや言葉選びが変わって然るべきです。敬意や配慮の度合い、あるいは対等な立場であるからこそ必要な率直さなど、それぞれの立場や関係性に応じて「伝え方の重さや柔らかさ」を調整することが求められます。
さらに、相手が外部の取引先である場合には、より丁寧さが問われます。自分の社内で通用する言い回しが、社外では馴れ馴れしく聞こえることもあります。つまり、「社内・社外」「上司・同僚・後輩」「親しい・それほど親しくない」などの要素をしっかり把握し、それに合わせた言葉選びを行うことで、信頼される存在としての言葉づかいを確立することができます。
工夫2 否定よりも肯定を優先した言い方を選ぶ
仕事の中で交わされる何気ない一言が、思いのほか大きな影響を与えることがあります。とくに、誰かの言葉に否定のニュアンスが含まれていた場合、それがどんなに理論的に正しくても、相手の心に残るのは「正しさ」よりも「冷たさ」や「突き放された感じ」であることが少なくありません。逆に、同じ内容を肯定的な表現に置き換えることで、相手が前向きに受け取ってくれることはよくあります。
このように、信頼される人ほど、何かを伝えるときに「どのように言うか」に気を配ります。たとえば、相手の提案に賛成できないときも、まずは肯定的な部分に目を向けてから改善点を伝えると、相手も話を受け入れやすくなります。この工夫は、職場の空気をやわらかくし、互いに意見を言いやすくする土壌を育てることにもつながります。
ここでは、否定的な表現を避けながらも、自分の意見や事実をきちんと伝えるための方法について、3つの視点で考えていきます。
肯定表現が信頼につながる理由
人は誰でも、自分の考えや行動を頭ごなしに否定されると、心のどこかで「否定された自分」そのものに意識が向いてしまいます。これは決して弱さではなく、人間として自然な反応です。そのため、たとえ意図が「もっと良くなるための助言」であったとしても、言い方によっては相手の意欲をくじいてしまうこともあります。
反対に、まずは肯定の気持ちを込めた表現を使うことで、相手は「自分の意見や存在が認められている」と感じることができます。そこからなら、たとえ内容に修正が必要だったとしても、素直に聞き入れようとする姿勢が生まれやすくなります。
たとえば、「この資料、ちょっと違うね」よりも、「ここまで丁寧にまとめてくれてありがとう。少し方向性だけ確認させてくださいね」と伝えた方が、同じ修正依頼でも前向きなやり取りが可能になります。このような言葉の配慮が、信頼関係を育む第一歩となります。
「でも」「しかし」から始めない工夫
よくある会話の中で、「いいですね。でも……」や「たしかに……しかし……」といったフレーズが使われることがあります。これらの接続詞は、話し手にとっては丁寧なつもりでも、聞き手にとっては前半の肯定が「取り消された」と感じられる場合があります。これが続くと、相手は「結局いつも否定される」と感じてしまい、提案や発言をためらうようになってしまうこともあります。
このような印象を避けるためには、肯定と補足を別々の文に分けて伝える工夫が有効です。たとえば、「この方法はとてもおもしろいと思います。もう少しだけ時間短縮の視点も加えると、より良くなるかもしれませんね」といったように、否定の印象を与えずに建設的な提案ができるようになります。
さらに、「しかし」の代わりに「一方で」や「とはいえ」といった少しやわらかい表現を使うことでも、印象はかなり変わります。言葉の選び方一つで、相手の受け取り方は大きく変わることを意識するだけで、会話は格段に穏やかで温かなものになります。
ポジティブに伝えるための言い換え例
日常の会話の中で、つい無意識に否定的な言い回しを使ってしまうことは誰にでもあります。でも、少し言葉を言い換えるだけで、その印象は驚くほど変わります。
たとえば、「それは無理です」ではなく「もう少し時間をいただければ対応可能です」と言い換えることで、相手は断られたという印象よりも、「前向きに考えてくれている」と感じるでしょう。「そんなの常識でしょ?」ではなく、「そういう見方もあるけれど、こういう考え方もできますよ」といった表現に変えることで、相手の尊厳を傷つけることなく自分の意見を伝えることができます。
こうした表現の変化は、相手との関係をより良くするだけでなく、自分自身の印象もやさしく、信頼できるものとして定着させる効果があります。もちろん、言い換えのスキルはすぐに完璧に身につくものではありませんが、「どうすれば伝わりやすくなるか」「相手が前向きに受け取れるか」と考えることが、少しずつ上達へとつながっていきます。
そして何より、肯定的な言葉を使うことは、聞く側だけでなく話す側の気持ちも穏やかにし、落ち着いた対話ができるようになるという副次的なメリットもあります。言葉づかいは相手だけでなく、自分自身の心のありようにも影響を与えるという点も、忘れずにいたいものです。
工夫3 丁寧語・敬語を自然に使いこなす

職場で信頼されるために欠かせない要素のひとつに、丁寧な言葉づかいがあります。中でも敬語は、ただ使えば良いというものではなく、自然に、そして相手との関係性に合った形で使い分けることが求められます。かしこまりすぎて距離を感じさせてしまったり、反対にくだけすぎて不快感を与えてしまったりと、そのバランスは意外と繊細です。
日々の仕事に追われるなかで、つい言葉がぶっきらぼうになってしまったり、誰に対しても同じ口調で話してしまったりということもあるかもしれませんが、信頼される人ほど、相手によって語調を変えたり、場の雰囲気を和らげたりする言葉の「選び方」を身につけています。このセクションでは、敬語を自然に使いこなすための視点を3つに分けて深掘りしていきます。
言葉づかいで印象が変わる場面とは
たとえば、社内の会議中、意見を述べる際に「これは違うと思います」とストレートに伝えるのと、「私の考えでは少し違った方向に見えます」とやわらかく表現するのとでは、聞く側の受け取り方がまったく異なります。前者は率直ですが、場合によっては攻撃的に聞こえることもあり、後者は敬意を保ちながらも、自分の考えをきちんと伝えています。
また、外部の取引先との電話やメールにおいても、文中の一言で印象が大きく左右されることがあります。「了解しました」という表現も、社内ではよく使われますが、対外的には「承知いたしました」や「かしこまりました」といった表現のほうが丁寧で安心感を与えます。このように、言葉づかいは相手との関係性を映し出す鏡のようなもので、使い方ひとつで「この人はきちんとしている」と感じてもらえるかどうかが決まります。
自然な敬語を身につけるためのコツ
敬語に苦手意識を持っている方も少なくありません。「間違って使ったら恥ずかしい」「変に聞こえないか不安」といった声も多いですが、実際には「完璧な敬語」を求められているわけではありません。むしろ、形式ばかりを気にして不自然な言い回しになるよりも、基本的な型を押さえたうえで、相手に伝わりやすく、無理のない表現を使うことの方が大切です。
たとえば、「〜していただけますか?」や「〜でよろしいでしょうか?」といった丁寧な依頼の形は、覚えておくとさまざまな場面で役立ちます。また、「〜の件、承知いたしました」「いつもお世話になっております」といった定番のフレーズも、自然に使えるようになると、急な対応のときでも安心してやりとりができます。
そして、自然に使えるようになるためには、日頃から他人の言葉づかいに注意を向けることがとても有効です。丁寧だなと感じる話し方や文章を見つけたら、メモしてストックしておくと、自分の言葉の引き出しがぐっと増えます。
敬語を使う場面と砕けた言葉の使い分け
一方で、丁寧すぎる敬語ばかりを使っていると、相手との距離が縮まらず、逆に堅苦しさやよそよそしさを与えてしまうこともあります。信頼関係がある程度築かれている相手や、日常の軽いやり取りの中では、適度にくだけた表現を混ぜることで、自然なコミュニケーションが生まれます。
たとえば、何度も会っているお客様に対して「本日もどうぞよろしくお願いいたします」だけでなく、「今日はいい天気ですね、お出かけ日和ですね」といった一言を添えることで、相手の気持ちがふっとやわらぎます。こうした“言葉の体温”のようなものがあるかどうかが、その人への印象を大きく左右するのです。
また、後輩や部下と接するときも、必要以上に堅苦しく話すのではなく、フランクさと丁寧さを上手に織り交ぜることで、話しやすく頼れる先輩としての雰囲気が醸し出されます。「大丈夫そう?」「ちょっとだけ手伝おうか?」といった自然な声かけも、敬語の正確さとはまた別の、人間味のある信頼を築く手助けになります。
敬語は、ただ言葉の形を守るだけでなく、相手への敬意や思いやりをどう表現するかの手段でもあります。だからこそ、「正しいかどうか」にとらわれすぎず、「相手がどう感じるか」を中心に言葉を選んでいくことが、最も自然で信頼される敬語づかいに近づく方法です。
工夫4 相手の話を受け止める共感の言葉を使う
職場での信頼関係を築くうえで、もっとも大切なもののひとつが「共感」です。共感とは、ただ同意することではなく、相手の感じていることや考えに心を寄せる姿勢を指します。特に仕事の場面では、効率や論理が優先されやすいために、「共感」が置き去りになってしまうことがありますが、そうした時代だからこそ、ひとことの共感が持つ力はとても大きいものです。
「わかります」「そうですよね」といった言葉は、何気ないようでいて、相手に安心感や受容の気持ちを与えることができます。もちろん、それをただの口癖として使うのではなく、相手の言葉を丁寧に受け止めたうえで使うからこそ、信頼を生む言葉になるのです。ここでは、共感を効果的に伝えるための言葉づかいについて、3つの視点から丁寧に考えていきます。
わかります・そうですよねの本当の意味
「わかります」と言うことで、相手は「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と感じることができますが、その言葉が本当に効果を持つのは、相手の話をしっかり聞いたうえで発せられたときだけです。たとえば、まだ話の途中なのに「わかります」とかぶせてしまうと、「本当にわかってるの?」という気持ちにさせてしまうこともあります。
共感の言葉は、タイミングと気持ちのこもり方がすべてです。しっかりと最後まで話を聞いてから、相手の表情やトーンに合わせて「それは大変でしたね」とか「おっしゃること、よくわかります」と丁寧に伝えるだけで、相手はその場でふっと心をほどくことができます。
また、相手の経験を自分の体験と重ねて話すと、さらに親近感が生まれます。「実は、私も以前似たような経験をしたことがあって……」と話すことで、相手は「この人には話しても大丈夫だ」と感じるようになります。こうしたやり取りは、単なる情報交換では得られない信頼関係を少しずつ育てていくのです。
感情に寄り添う言葉を選ぶコツ
共感の言葉を上手に使うためには、相手がどんな気持ちでその話をしているのかを感じ取ろうとすることが大切です。たとえば、何かに怒っている人に対して「そんなに怒らなくても」と言ってしまうと、逆に火に油を注ぐ結果になります。そうではなく、「それは腹が立ちますよね」と相手の感情を認める言葉をかけることで、気持ちは落ち着いていきます。
相手が悩みを抱えているときには、「大変ですね」「つらかったですね」という言葉が、何よりの癒しになることもあります。ただ、これらの言葉を表面的に使うのではなく、表情や声のトーン、間の取り方を工夫することで、本当に寄り添っているという空気を伝えることができます。
また、嬉しい報告に対しても、「よかったですね!それは嬉しいですね!」と共に喜ぶ表現を忘れないことも大切です。共感はネガティブな場面だけではなく、ポジティブな感情を一緒に味わうことでも育まれます。仕事の場でも、こうしたさりげない「気持ちの共有」が信頼の土台になっていくのです。
共感を表す言葉のタイミングとバリエーション
「共感の言葉」は使いすぎても嘘っぽくなり、少なすぎても冷たく見えてしまうものです。そのため、大切なのは“適切なタイミング”で、“その人に合った表現”を選ぶことです。たとえば、「うんうん」「そうですよね」「それは大変でしたね」「私もそう感じたことあります」など、同じ気持ちを示す言葉にもさまざまなバリエーションがあります。
話し相手の性格や関係性によって、砕けた表現が好まれる場合もあれば、より丁寧で控えめな表現が信頼感を高めることもあります。「すごく共感します」という表現が親しい関係では自然に聞こえても、ビジネスの場では「おっしゃること、非常によくわかります」といったフォーマルな言い方が好まれることもあります。
タイミングについても、相手が話し終える少し前の“間”を見逃さずに、そこで一言添えることで会話の流れがより自然になります。逆に、相手の感情がまだ高ぶっているときに共感の言葉を入れると、「軽く流された」と感じさせてしまうこともあるので、空気を読む力も大切になります。
共感は技術ではなく、気持ちから生まれるものです。でも、その気持ちを言葉に変えていくためのコツを知っていれば、職場のあらゆる場面で、より深く人とつながることができるようになります。
工夫5 気遣いを込めた言い回しを選ぶ

仕事におけるコミュニケーションでは、相手の気持ちや立場を思いやる「気遣い」が言葉に表れているかどうかが、信頼を築く大きな分かれ道となります。気遣いと聞くと、「難しそう」「気を使いすぎて疲れてしまいそう」と感じるかもしれませんが、実際にはほんの少し言葉を添えるだけで、相手に与える印象は大きく変わります。
たとえば、単に「資料を送ってください」と言うのではなく、「お忙しいところ恐れ入りますが、資料をお送りいただけますと助かります」と伝えるだけで、相手への敬意や配慮が伝わります。このような一文を加えるだけで、相手の心の負担は軽くなり、良好な関係を築きやすくなるのです。
ここでは、気遣いを言葉に乗せて伝えるための具体的な工夫について、3つの視点から深掘りしていきます。
一言添えることで伝わる配慮
日常のやり取りの中で、用件だけを簡潔に伝えることは大切です。ただし、その簡潔さが冷たさや命令口調に見えてしまうこともあります。そんなとき、「ほんの一言」を添えることで、印象はまったく変わります。
たとえば、「〜してください」という依頼に対して、「お忙しい中恐縮ですが」「お手すきの際に」などの前置きを加えるだけで、相手への思いやりが感じられるようになります。この一言は相手にとって「自分の状況を理解しようとしてくれている」という安心感につながり、お願いされた側も気持ちよく対応しようという気持ちになれます。
また、資料や連絡をお願いした後に「ご面倒をおかけして申し訳ありません」といった一文を添えることも、信頼を育てるコミュニケーションの一部です。こうした小さな気遣いが、積み重なって「この人は話しやすい」「丁寧に接してくれる」といった印象を生み出していきます。
お手数ですが・ご都合いかがでしょうか などの活用法
「お手数ですが」「ご都合いかがでしょうか」といった表現は、相手の手間や予定に対して敬意を払うときに非常に便利なフレーズです。これらはビジネスメールの定番でもあり、活用することで、文面からにじみ出る気遣いを形にすることができます。
たとえば、「ご都合のよい日時を教えてください」とお願いするよりも、「ご多忙のところ恐縮ですが、ご都合のよい日時をいくつかお知らせいただけますと幸いです」と伝える方が、受け手に与える印象がずっと穏やかになります。形式的ではありますが、こうした定番表現の裏には、「あなたのことを大切に思っています」という気持ちが込められており、それがしっかりと伝わるのです。
特に、やり取りが文字ベースのとき(メールやチャットなど)は、声のトーンや表情が伝わらないため、言葉だけで配慮を伝える必要があります。そのときに、こうした一文を添えることで「この人は礼儀正しい人だな」と思われるきっかけになります。
相手の負担を考えたお願いの仕方
仕事の依頼をする際に、相手の忙しさやスケジュールに配慮した言葉づかいができるかどうかは、その人の人間性や信頼感に直結します。「今すぐにこれをお願いします」といった命令的な口調は、相手の状況を無視しているように映ってしまいます。
代わりに、「差し支えなければ、今週中にご対応いただくことは可能でしょうか」や、「もしタイミングが合えばお願いしたいのですが」といった表現を用いると、相手はプレッシャーを感じることなく、快く動いてくれる可能性が高まります。
また、相手に何かをしてもらった後には、「お時間を割いてくださってありがとうございました」「ご対応いただき感謝いたします」といったお礼の一言を忘れずに伝えることで、依頼→完了→感謝というやり取りが円滑に流れます。これにより、仕事のやり取り自体がスムーズになるだけでなく、次のお願いごともしやすい関係性が築かれていきます。
気遣いとは、相手を特別扱いすることではありません。ただ、少しだけ相手の気持ちを想像して、言葉を選び、伝え方を工夫すること。そうした「小さな思いやりの積み重ね」が、やがて「信頼される人」としての評価につながっていきます。
工夫6 誤解を生まない説明を心がける
仕事において、信頼を損ねる原因のひとつに「伝えたはずのことが、相手に正確に伝わっていなかった」というすれ違いがあります。これは、意図的なものではなく、多くの場合が「言葉の省略」や「前提の共有不足」など、無意識のうちに起こる誤解によるものです。
一方で、信頼される人ほど、同じような状況でも誤解を生まず、相手とスムーズなやり取りを続けています。それは、丁寧に説明を加えたり、確認の言葉を添えたりすることで「伝えたつもり」を避ける意識を持っているからです。
ここでは、誤解のない言葉づかいを実現するために意識したい3つの観点について、具体的にお話していきます。
曖昧な言い回しを避けるポイント
ビジネスの現場では、「たぶん」「一応」「なんとなく」「そのあたりで」などの曖昧な表現が思わぬ混乱を生むことがあります。使う側にとっては柔らかく聞こえる言葉であっても、聞き手にとっては「判断を委ねられている」「責任を押しつけられている」と感じることもあります。
たとえば、「できれば早めにお願いします」という依頼は、一見するとやさしく聞こえますが、「早め」とはいつなのかが相手に伝わらなければ、作業の優先度を判断できません。「明日の午前中までにご対応いただけると助かります」のように、具体的な期限を提示することで、行動が取りやすくなり、無用なストレスを回避できます。
また、「そちらで適当にお願いします」といった丸投げ表現も要注意です。相手に裁量を与えているようで、実は責任を放棄しているようにも聞こえます。判断を委ねたい場合でも、「こちらの意図としては〜ですが、お任せしてもよろしいでしょうか?」のように、前提や希望を伝えてから任せる形をとることで、誤解の余地は少なくなります。
主語や意図を明確にする表現技術
仕事の中でよくある伝達ミスのひとつが、「主語が抜けていることによる誤解」です。たとえば、「確認が必要です」とだけ伝えた場合、「誰が?」「何を?」という情報が欠けており、相手は内容を自分で補って解釈する必要が出てきます。これが人によって解釈が異なると、業務がズレた方向に進んでしまうこともあります。
主語を明確にするだけでなく、「なぜそうするのか」という意図まで丁寧に説明すると、相手の納得度は格段に高まります。「この資料は、次の会議で使うために上司に確認していただきたいと思います」と伝えれば、目的が明確になるため、ただの依頼ではなく「必要な手順の一部」として自然に理解されます。
また、「〜と思います」「〜したほうがいいかもしれません」といった推測系の表現を多用すると、責任を曖昧にしたように受け取られることがあります。使う場面を選びつつ、必要に応じて「〜と考えています」「〜と判断しました」と、意志を明確にする言葉を使うことで、信頼感を高めることができます。
「伝えたつもり」を防ぐ確認の言葉
話し手がしっかり説明したつもりでも、相手がそのとおりに理解しているとは限りません。そこで大切になるのが、確認の一言を添える習慣です。たとえば、「今の内容で問題ないでしょうか?」「もし不明な点があれば遠慮なくおっしゃってくださいね」など、相手が安心して質問できる雰囲気をつくることが大切です。
また、メールやチャットでは、文面が誤解を招く可能性があるため、「念のため再確認させてください」「こちらの認識で合っているか確認させていただけますか」といった丁寧なやり取りを心がけると、お互いのズレを早い段階で修正できます。
さらに、口頭でのやり取りのあとには、「念のため、先ほどの内容をまとめておきます」とメールを送ることで、記録として残すことも可能になります。こうした確認の一手間は、トラブルを未然に防ぐだけでなく、「丁寧な人だな」「きちんとした対応をする人だな」という信頼につながっていきます。
誤解を防ぐということは、単に正確な情報を伝えることにとどまらず、相手との信頼関係を守り、深めることでもあります。「言わなくてもわかるだろう」ではなく、「言わないとわからないかもしれない」という前提で話す。この小さな意識が、日々の仕事をずっと心地よく、安心できるものに変えてくれます。
工夫7 感謝やねぎらいを日常的に伝える

どんなに効率よく仕事が回っていたとしても、そこに「人と人との心のつながり」がなければ、やがてコミュニケーションは機械的になり、職場の雰囲気も冷たくなってしまいます。そんな中で、信頼される人が必ず大切にしているのが「感謝やねぎらいの言葉を日常的に伝えること」です。
ありがとう、ご苦労さまです、助かりました。こうした言葉は、特別な技術を必要としないにもかかわらず、相手の心を温め、その人に対する信頼や安心感をぐっと高める力を持っています。ここでは、職場で自然に「感謝」や「ねぎらい」を伝えるためのポイントを、3つの観点から掘り下げていきます。
ありがとうを自然に伝えるタイミング
「ありがとう」という言葉は、多くの人が知っていて、使い慣れているはずなのに、いざという時に言いそびれたり、気恥ずかしさを感じたりしてしまうことがあります。しかし、この言葉を口にするかどうかで、その場の空気がやわらかくなるかどうかが決まることも少なくありません。
たとえば、誰かが仕事を手伝ってくれたときや、細かなフォローをしてくれたとき、その行動が当たり前になってしまうと、感謝の言葉が省略されがちです。しかし、そうした小さな行動こそ、「見てくれていたんだな」と思える一言が大切です。特に「ありがとうございます」という言葉に、自分なりの具体的な言葉を添えると、より気持ちが伝わります。
「急ぎの対応、本当に助かりました」
「丁寧にまとめてくれてありがとう、わかりやすかったです」
「早めに準備してくれていて助かりました。おかげで余裕が持てました」
このように、何に対する感謝なのかを少し具体的にするだけで、言葉に厚みが出て、相手の心にしっかりと届くようになります。
成果よりも過程を認める言葉の効果
多くの職場では、最終的な成果や数字に注目が集まりがちです。しかし、信頼される人はその過程にも目を向け、努力や工夫に対しても言葉をかけることを忘れません。成果が出るまでには、試行錯誤や地道な作業が積み重なっていることが多く、それを理解していることを言葉で伝えることで、「この人はちゃんと見てくれている」と思ってもらえるのです。
たとえば、「まだ結果は出ていないけれど、取り組み方がとても丁寧で安心しています」といった言葉や、「準備に時間をかけてくれていたのを知っていたよ、ありがとう」という一言は、相手の自信につながります。
また、「結果が出たこと」ではなく、「そこに至るまでの工夫や努力」に光を当てるような言葉は、相手のモチベーションを大きく高めます。評価されていると感じたとき、人は次の行動にも前向きになれるからです。
こうした声かけは、上司から部下へだけでなく、同僚同士や後輩から先輩への言葉にもとても効果があります。役職や年齢に関係なく、「認められている」「気にかけてもらえている」という感覚は、誰にとっても嬉しいものなのです。
一人ひとりに合わせた感謝の伝え方
感謝の気持ちは誰にでも持てるものですが、伝え方にはその人らしさや関係性に合わせた工夫があると、より深く届きます。たとえば、言葉でストレートに伝えることが苦手な場合でも、メモやメールで感謝を伝えるという方法もあります。
「今日は急なお願いを聞いてくれてありがとう。とても助かりました」
「資料の修正、気づいてくれてありがとう。あれがなかったら困っていたと思います」
このように、ちょっとしたやりとりの中に感謝の意を込めることができますし、伝えられた側は「この人はちゃんと見てくれている」と感じて、より信頼が深まります。
また、相手の性格によっても伝え方を変えることができます。たとえば、照れくささを感じるタイプには軽く「助かったよ、ありがとうね」とラフに伝え、言葉をしっかり受け止める人には「心から感謝しています」と丁寧に伝えるなど、相手をよく観察したうえで伝えることで、その効果は何倍にも広がります。
感謝やねぎらいの言葉は、派手ではありませんが、確実に人の心に届きます。そして、それを日常的に伝えている人は、「また一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるような信頼を築いていきます。どんなに多忙な中でも、「ありがとう」と言える自分でいること。それが、職場の空気を温め、人間関係をより良いものに変えていく大切な習慣です。
まとめ
ここまでご紹介してきたように、「仕事で信頼される人」が実践している言葉づかいには、共通して“相手を思いやる気持ち”が込められています。人は言葉でつながり、言葉で誤解もします。そして何より、言葉によって相手との距離を縮めたり、信頼を育んだりすることができるのです。
相手の立場を想像すること、肯定的な表現を選ぶこと、自然な敬語を使うこと、共感の気持ちを言葉にすること、さりげない気遣いを添えること、誤解のないように説明すること、そして感謝の気持ちを忘れずに伝えること。これら7つの工夫は、どれも特別なスキルや経験がなくても、今日から実践できるものばかりです。
日々のやり取りの中で、ちょっとした気配りや一言を意識するだけで、職場の空気は大きく変わります。「あの人と話すと安心する」「話しやすい」「頼りになる」と思ってもらえるようになれば、それは大きな信頼の証です。たとえ仕事の内容が同じであっても、言葉づかいひとつで、周囲からの評価や人間関係、チームの雰囲気までがより良い方向へと変化していきます。
そして何より、相手の心に寄り添うような言葉を使い続けることで、自分自身の気持ちにもゆとりが生まれます。思いやりのある言葉は、相手のためだけでなく、自分の心をやわらかくする効果もあるのです。
職場での信頼関係を築くのは、決して一朝一夕ではありません。しかし、日々の小さな言葉の積み重ねが、それを少しずつ形づくっていきます。どうせ言うなら、気持ちのこもった一言を。そうした積み重ねが、きっとあなたの仕事をより豊かに、心地よいものにしてくれるはずです。